全身麻酔より身体へのリスクが低いからと言って簡単に考えてませんか?
局所麻酔でもしも起こったら怖いこともあるのでここでしっかり押さえておきましょう!
局所麻酔手術のメリットは、手術の疼痛管理が行いやすく、術後の回復も早く、入院期間が短いことが挙げられます。
また、全身麻酔に比べて副作用、合併症のリスクが低く、侵襲が少ないことも特徴です。
さらに、手術中に意識があるため、患者とのコミュニケーションがとりやすく、手術の進行状況についても患者と共有しやすいという利点もあります。
しかし、「局所麻酔薬アレルギー」や「局所麻酔薬中毒」といった怖い合併症もあるのでチェックしておくことが大事です。
【局所麻酔手術の流れ】
局所麻酔手術の流れには、患者が手術室に入室する前から始まります。手術前の準備や手術中の流れに沿って必要な知識を学んでいきましょう。
局所麻酔手術の心構え
局所麻酔手術を行うにあたっては、患者の安全を確保するために、以下のような準備が必要です。
手術前の患者の情報収集
術前に手術を受ける患者の情報収集は大切で、患者の既往歴や現在の状態、薬の使用状況、手術同意書の有無など、詳細な情報を収集し、手術に対するリスクがないか事前に情報をとっておく必要があります。
術前情報収集は、「SAMPLE」を参考にして情報収集するのも良いでしょう。
項目 | 内容 | 詳細 |
---|---|---|
S | 症状 (Symptom) | どんな症状がいつ起こったか |
A | アレルギー (Allergies) | 薬、食物、環境因子 |
M | 薬剤 (Medications) | 常用薬の種類・量、最終服薬時間 |
P | 過去の病歴 (Past medical history) | 基礎疾患、既往歴、手術歴 |
L | 最後の食事 (Last meal) | 最後の食事時間と内容 |
E | 事象、状況 (Events, Environment) | 発症から受診に至るまでの経過 |
手術室の準備
手術室の準備には、手術に必要な器械や医療材料の準備、手術部位に応じた手術体位の準備、手術に必要な薬剤の用意が必要です。
局所麻酔薬の用意
局所麻酔薬を執刀医の指示に対応できるように、用意する必要があります。また、手術部位に合わせて、麻酔の方法や手順を確認し、局所麻酔の準備をする必要があります。
局所麻酔の方法と局所麻酔薬の種類
局所麻酔薬は、麻酔方法や種類によって作用時間が異なり、使用できる量が違ってきますのでここで確認しましょう。
表面麻酔
手術部位に塗り薬を塗ることで、表面を麻酔させる方法です。粘膜(口腔、結膜、角膜)や皮膚表面に使用します。採血や内視鏡検査など、比較的小さな処置や手術に使用されます。
局所浸潤麻酔
手術部位に直接注射することで、局所的に麻酔効果を得る方法です。ただし、大量の薬液を注入するため、血液中に薬剤が混入し、局所麻酔薬中毒を引き起こすことがあります。
伝達麻酔(神経ブロック麻酔)
神経周囲に薬液を注射することで、その神経に関わる部位の麻酔効果を得る方法です。この方法は、手術部位が神経の集まりに近い場合(四肢など)に使用されます。
- 脊椎麻酔
局所麻酔薬をくも膜下腔に注入し、下腹部や下肢の鎮痛に用いられます。 - 硬膜外麻酔
局所麻酔薬を硬膜外腔に注入して、胸部や腹部、両足の範囲を限定できる麻酔です。
専用のチューブを挿入し、持続的に麻酔を効かせることができます。
以上のように、局所麻酔法は種類が複数あり、適切な種類を選択することが重要です。
局所麻酔薬の種類
局所麻酔薬ごとに使用限度量、作用時間、副作用を確認しましょう。
※日本麻酔科学会医薬品関連薬使用ガイドラインを参考
リドカイン(キシロカイン®)
- 使用限度量:200mg/回
1%リドカイン10mlの場合(塩酸リドカインが100mg含有のため20mlまで) - 作用時間:30〜90分
- 副作用:めまい、嘔気、嘔吐、蕁麻疹、呼吸困難、意識障害、心停止、悪性高熱
プロカイン(プロカイン®)
- 使用限度量:1000mg/回
0.5%プロカイン塩酸塩注射液10mlの場合(プロカイン塩酸塩50mg含有のため200mlまで) - 作用時間:30〜60分
- 副作用:めまい、嘔気、嘔吐、蕁麻疹、呼吸困難、意識障害、心停止、メトヘモグロビン血症
ブピバカイン(マーカイン®)
- 使用限度量:10~20mg/回
マーカイン注0.5%の場合(ブピバカイン塩酸塩20mg含有のため4mlまで) - 作用時間:120〜240分
- 副作用:めまい、嘔気、嘔吐、血圧上昇、蕁麻疹、呼吸困難、意識障害、心停止
ロピバカイン(アナペイン®)
- 使用限度量:175mg~375mg
0.75%アナペイン10mlの場合(ロピバカイン塩酸塩が75mg含有のため20ml~50mlまで) - 作用時間:120〜240分
- 副作用:めまい、嘔気、嘔吐、血圧低下、蕁麻疹、呼吸困難、意識障害、心停止
メピバカイン(カルボカイン®)
- 使用限度量:7mg/kg
1%カルボカイン10mlの場合(メピバカイン塩酸塩100mg含有のため50kgで35mlまで) - 作用時間:60〜120分
- 副作用:めまい、嘔気、嘔吐、蕁麻疹、呼吸困難、意識障害、心停止
レボブピバカイン(ポプスカイン®)
- 使用限度量:150mg/回
0.5%ポプスカイン10mlの場合(レボブピバカイン塩酸塩50mg含有のため30mlまで) - 作用時間:120~480分
- 副作用:血圧低下、嘔気、嘔吐、振戦、痙攣、意識障害、呼吸困難、心停止
キシロカイン注射液エピレナミン(キシロカインE®)
- 使用限度量:7mg/kg
1%キシロカインE20mlの場合(リドカイン塩酸塩200mg含有のため50kgで350mgのため35mlまで) - 作用時間:30~300分
- 副作用:頻脈、期外収縮、めまい、頭痛、嘔気、嘔吐、蕁麻疹、結膜充血、眼痛、意識障害、呼吸困難、心停止
E入りキシロカインと読んだりするエピネフリン含有のキシロカインは手術部位によって壊死を起こすことがあるため、注意をしましょう。
アドレナリン添加されたリドカインは、出血量を減らすために使用されますが、使用には注意が必要。以下にその点について詳しく説明します。
局所麻酔手術の実施
局所麻酔手術は、患者とコミュニケーションをとれるため、身体症状を随時、患者に確認をしながら進行していくことができます。しかし、患者は器械の音や術中の会話、電気メスなどの臭いなどが分かってしまいます。そのため、不安を感じることが多くなるため患者の精神的な面への配慮が必要となります。
手術中のモニタリング
手術中は、患者のバイタルサインを常にモニタリングします。また、手術中に痛みを感じていないか観察を行い、その都度、執刀医に報告し、局所麻酔の追加など対処を行います。 局所麻酔手術でとくに術中のモニタリングで気を付けなければならないのは、アレルギー症状と局所麻酔中毒症状です。 この2つのどのような症状に気が付かないといけないかここで確認しておきましょう。
局所麻酔薬アレルギーについて
局所麻酔薬アレルギーの症状
局所麻酔薬アレルギーの症状は、アナフィラキシーガイドライン2022に次のように示されています。
局所麻酔薬アレルギーの対処法
局所麻酔薬アレルギーの対処法は、症状の程度によって異なります。
とにかく、まずは、アナフィラキシーの症状にいち早く気が付くように局所麻酔薬を使用しているときには患者の観察をしっかり行いましょう。
まずは、患者をしっかり観察することです。ほかに薬剤を使用してないのにさっきと反応や様子がおかしいなと思ったら【A】を評価してみましょう♪
局所麻酔薬中毒について
局所麻酔中毒は、局所麻酔薬を使用した際に、体内に過剰な量の薬剤が蓄積されることで引き起こされる症状です。局所麻酔薬は、神経を麻痺させる効果があるため、使用量を過剰にすると、全身の神経に影響を及ぼし、重篤な症状を引き起こすことがあります。
局所麻酔薬中毒の症状
局所麻酔中毒の症状は、使用した薬剤によって異なりますが、以下のような症状が現れることがあります。
局所麻酔薬中毒の予防
執刀医が、局所麻酔薬を使用する際に手術室看護師として投与法や投与量に注意して観察をします。
局所麻酔薬の投与量を減らす
局所麻酔薬の血中濃度を推定することは難しいため、単純に体重あたりの最大耐容量のみを参考にして投与することは望ましくありません。提示される最大耐容量よりも少ない量を投与します。
少量分割投与
局所麻酔薬を投与する際は、少量(3-5ml)ずつ、分割して投与し、投与するたびにしばらく時間をおいて観察しましょう。投与速度が速く、高圧で一気に注入すると、血管内へ局所麻酔薬を誤って投与してしまう可能性があるうえに、神経障害を引き犯す可能性もあります。
局所麻酔薬中毒の発症リスクが少ない局所麻酔薬を使う
高用量の局所麻酔薬を用いる場合、薬剤の選択は、作用のしくみからロピバカインやレボブピバカインの方が中毒症状が出にくい。
穿刺後の吸引テストを実施する
血管内に局所麻酔薬を投与していないかを確認するために、局所麻酔薬の注射針を穿刺した直後、血液の吸引がないか吸引テストを行う。
局所麻酔薬中毒の対処法
局所麻酔薬中毒が疑われた場合
局所麻酔中毒は、半数は投与後50秒以内、4分の3の症例では投与後5分以内に症状が発現します。
また、41%の症例は、神経症状なしに循環症状が出現することがあります。
中毒症状が現れた場合、重症化することを考え、人手を確保を優先し、対応することが大事です。
- 局所麻酔薬の投与を中止
- 応援の要請
- 静脈ラインの確保(点滴ラインがない場合)
- 気道確保および100%酸素投与、必要に応じて気管挿管、人工呼吸
- 痙攣の治療(ベンゾジアゼピンが推奨、血圧、心拍が不安定な場合はプロポフォールの使用は不可)
- 余裕があれば血中濃度測定のための採血
重度の低血圧や不整脈を伴う場合
脂肪乳剤を投与することで、脂溶性の高い局所麻酔薬と結合し、血中濃度を低下させる可能性が高いとされています。
イントラリポスが、常備されているか、手術室では使用頻度が低いため、期限切れになっていないか確認をしておきましょう。
まとめ
①局所麻酔手術の心構え
事前のアレルギーチェックや局所麻酔薬の投与限度量をチェックして準備をしておくことが大事です。
②局所麻酔薬アレルギーの症状と対処法
まずは、しっかりと患者を観察!少しでも手術開始から様子が違うと思えば患者に話しかけてみること。
③局所麻酔薬中毒の症状と対処法
ここでもまずは患者の観察!中毒症状がみられた場合、重症化するリスクを考え、落ち着いて人手をまず集めることが優先です。
局所麻酔手術において、使用する薬剤やその副作用、手術中のモニタリングや局所麻酔薬のアレルギー・中毒について説明してきました。 手術時には、患者のバイタルサインを常にモニタリングするとともに、痛みを感じていないかを観察することが重要です。また、アレルギー症状や中毒症状にも注意を払い、適切な対処を行うことが必要です。
全身麻酔での手術に比べて手術に対するリスクは低くなりますが、されど手術です。 1症例1症例油断せずにやっていきましょう!